情熱シアター

伊藤裕成さん

「犬とともに」お互いを生かし合う
より良い社会をめざして。

日本レスキュー協会理事長 伊藤裕成 いとう・ひろなり

日本レスキュー協会理事長
伊藤 裕成 いとう・ひろなり

1999年より日本レスキュー協会に携わり、2004年に理事長に就任。災害救助犬やセラピードッグの活躍を多くの方に知ってもらい、活動の幅をより広げるため、全日本救助犬団体協議会副会長、NPO災害支援団体ネットワーク役員、甲子園大学 現代応用心理学(アニマルセラピー)非常勤講師を務める。


SeRVの活動を通じて、様々な方との出会いがあります。
出会いから、さらなる絆が生まれ、また新たなつながりができていきます。
このページでは、「困っている誰かの為に、何かしたい」という志をともにする方々の、活動に対する熱い思いをご紹介します。
今回は、日本レスキュー協会理事長の伊藤裕成さんにお話をうかがいました。

第1章

災害直後の現場で、人の命を救うために活動する災害救助犬

私が始めて災害救助犬に出会ったのは、1995年、阪神淡路大震災の時でした。未曽有の大震災の中、活躍する犬の姿を見て、これはすごいと驚きました。
日本レスキュー協会が生まれたのもこの年です。その後、私は知人であった前代表の活動をサポートするようになり、10年前に協会の運営を引き継いで、2代目の代表となりました。

日本レスキュー協会のテーマは「犬と共に社会に貢献する」ことです。犬が人より大きく優れているところはいろいろ思うんですね。まず一つ目が「嗅覚」です。犬はヒトの何万倍も嗅覚が発達しており、人の匂いを嗅ぎわける能力は今の技術の粋を集めても、機械などでは代わりができないと言われています。
この「優れた嗅覚」を活用しているのが、災害救助犬です。災害救助犬とは、地震や台風、土砂崩れなどの災害で行方不明になっている人を、捜索するために訓練された犬たちです。日本レスキュー協会では、こうした災害救助犬の育成と派遣をしています。

■ 東日本大震災での救助活動(2011年3月)

東日本大震災での救助活動(2011年3月) 写真
東日本大震災での救助活動(2011年3月) 写真

災害救助は、生存率が急激に低下する災害発生後72時間までに活動することが重要だと言われています。そのため、災害救助犬も災害が起きてすぐに現地入りし捜索活動をスタートさせることが求められます。その場合、災害現場での救助活動には自治体などの許可が必要です。また、災害救助犬が見つけた方を、がれきや土砂の中から助け出す活動をしてくださる 消防隊や自衛隊などとの連携が欠かせないのです。
以前は災害救助犬の認知が低く、活動の許可や活動の連携が整うまでにずいぶん時間がかかりました。今でも、要請や許可が下りる前にまず現場まで行って、その調整をはかることがほとんどです。
東日本大震災の時も、被災当日の午後6時半には3頭の救助犬が現地に向けて出発しました。現地との電話が通じなかったため、とにかく被災地へという思いで、見切り発車での出発でした。

じつは私自身は、東日本大震災が発生した当時、入院していたのです。でも津波で町が飲み込まれる様子をテレビで見て、すぐに外出届けを出し、日本レスキュー協会に駆け付けました。それからは連日、病院から協会に通いながら、被災地の災害対策本部とやり取りをしたり、救援物資を集めて送ったり、被災地に送るための募金活動を行ったりしていました。

伊藤さん

最近はマスコミにも災害救助犬の活躍が取り上げられるようになり、その必要性が認められる場面が増えてきました。今年の8月に発生した広島の土砂災害では、災害救助犬の活動を知っているある市長が、広島市長に助言し、非常にスムーズに救助活動を開始することができました。
「その被災地で消防隊の方に『今後も連携していけますね』と言っていただいたときには、これまでの活動を認めていただいた気がして、うれしかったですね。 」とスタッフも言っています。

■ 広島の土砂災害での救助活動(2014年8月)

東日本大震災での救助活動(2011年3月) 写真
東日本大震災での救助活動(2011年3月) 写真

災害の現場に災害救助犬と共に出動するハンドラーによると、災害現場で最も気を遣うのは、犬の体調管理だといいます。探索は犬にとって非常に集中力がいる仕事で、広い範囲を大まかに探す場合は1時間ほど続けられますが、狭い範囲をピンポイントで調べる際は15分が限界です。がれきの上などを探索する場合は犬がケガなどしないよう、犬が立ち入る場所を事前に確認します。
ハンドラーは自分のパートナー犬との訓練を重ねる中で、信頼関係を培っていきます。広島の土砂災害での活動でも、犬のちょっとした反応の変化をハンドラーが感じ取ったことが、ご遺体の発見につながりました。

■ 救助犬が活動した災害の一部

パキスタン地震(2005年10月) 写真
パキスタン地震(2005年10月)
新潟県中越沖地震(2007年7月) 写真
新潟県中越沖地震(2007年7月)
スマトラ沖地震(2009年10月) 写真
スマトラ沖地震(2009年10月)
台風12号 奈良県(2011年9月) 写真
台風12号 奈良県(2011年9月)
第2章

まっすぐな愛情で人の心を癒してくれるセラピードッグ

セラピードッグ

犬が人より大きく優れているもう一つのところが「愛情表現」。人間対人間では気恥ずかしさや遠慮が生まれて、うまくいかないことがありますが、犬はどんな人ともストレートに愛情を表現します。この犬の「ストレートな愛情表現」を活かして活動しているのが、セラピードッグです。

セラピードッグは、高齢者施設や被災地の仮設住宅などを訪ね、ふれあいを通じて心のケアをします。ある時、犬と一緒に慰問に訪れると、被災地の方々の顔に笑顔が広がりました。それをきっかけに、セラピードッグの訓練と派遣が始まりました。

陸前高田 仮設住宅 (2013年5月)
陸前高田 仮設住宅 (2013年5月)

大船渡市 仮設住宅 (2013年5月)
大船渡市 仮設住宅 (2013年5月)

セラピードッグは高度な訓練を受けており、愛情を表現するだけでなく、どんな相手からも愛情を受け止めます。人間は、愛情を「交換」することで幸福感が得られるものなんですね。ただ一方的に世話をしてもらったり、愛情を受け取ったりするだけでは、真の幸せは得られないのではないかと思います。
被災地の方々や高齢者施設にお住いの方々は、一方的なサポートや愛情を受け取る機会はあっても、自分から愛情を表現する機会は限られています。セラピードッグが相手なら、自分の胸に飛び込んできてくれた犬を抱きしめ、愛情を込めて撫でることができます。セラピードッグとのふれあいで、そうした愛情の交換を実現できるのです。

宮城県仙台市 被災者の方々と (2013年12月)
宮城県仙台市 被災者の方々と (2013年12月)

セラピードッグを連れて被災地を訪ねると、その時だけは苦しみを忘れて気分転換になると言ってくださいます。 例え1時間のふれあいでも、その時間が生きがいになって、生きる希望がわいてくるようです。
災害救援のボランティアをする団体はたくさんありますが、活動の期間はどうしても限定的になります。時間が経てば、報道も減ります。一時は多くのボランティアが活動をしていた仮設住宅も、一定の期間を過ぎると、ほんとうに寂しくなっていることがありました。久しぶりにセラピー犬と一緒に訪ねた私たちに「また来てくれるの?」と言われたことがありました。行き続けなければならない、仮設住宅が建っている限り行き続けよう、と思いました。

日本レスキュー協会のセラピードッグたちは、精神科医や大学教授研究チーム、訪問施設の医療従事者とともにセラピーの効果の検証にも協力しています。やがて、心のケアを目的としたふれあい活動を超えて、介護ケアプラン・医療プログラムとしても活動していってほしいと思っています。

第3章

これから犬と一緒にできること

今後の活動としては、災害の際に災害救助犬がスムーズに救助活動に参加できるよう、さらに自治体などとの連携をとって行く必要があると思っています。今年の9月、陸上自衛隊と池田市消防本部との共同訓練が日本レスキュー協会の訓練施設で行われたのですが、これは災害救助犬の歴史に残るほどの夢のような出来事です。日本で災害救助犬の育成と派遣を初めて19年、地道な活動を続けてきて、やっとここまでたどり着きました。

■ 救助犬が活動した災害の一部

陸上自衛隊、池田市消防本部との共同訓練(2014年9月) 写真1
陸上自衛隊、池田市消防本部との共同訓練(2014年9月) 写真2
陸上自衛隊、池田市消防本部との共同訓練(2014年9月) 写真3
陸上自衛隊、池田市消防本部との共同訓練(2014年9月) 写真4

さらに災害救助犬の信頼性を高めるためには、災害救助犬の認定基準とネットワークを整備していく必要があります。そのために全日本救助犬団体協議会を設立し、参加団体を中心に、技術の向上に努めるような未来も考えています。

それからセラピードッグの活動については、「行き続けること」が大切だと思っています。例えば、私たちは2007年に起きた新潟県中越地震の被災地に何度も足を運んでいるのですが、重ねていく中で現地ではほとんど支援がなくなっていき、被災者の方々も「自分たちは忘れ去られしまった」と取り残された気持ちを抱えていました。
現地に足を運んで、見守っていますよというメッセージを送ることが大事だと思っています。身を置いて、被災者と会い、そして自分はどうすればいいのかを感じてみてほしいと思います。東日本大震災においても、私は仮設住宅がなくなるまで支援を続けていくつもりです。

伊藤さん

私にとって、犬は夢、目的に向かっていくための大切なパートナーです。人間を助けたり癒したりしてくれる犬がいる一方で、多くの犬たちが保健所で殺処分されている現実を見ると、この現状が少しでも改善するよう殺処分ゼロを目指して、飼い主のいない犬の保護や里親探し、動物販売業者によるマイクロチップ挿入義務化を求める署名活動などを行っています。
犬の優れた能力を活かして、さまざまな形で人間に貢献し、人間と犬の社会がより良い形で発展していくよう、これからも活動を続けていきたいと思っています。

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