情熱シアター

山本智恵子さん(前編)

「自分のやれる範囲でやっていく」
「手を出しすぎない、かつ、
見放しすぎない」
サステイナブルな支援を
実現するためのモットー。

訪問ボランティアナースの会 キャンナス熊本 代表 山本智恵子 やまもと・ちえこ

訪問ボランティアナースの会 キャンナス熊本 代表
山本 智恵子 やまもと・ちえこ

熊本県熊本市生まれ。2006年熊本市医師会立看護専門学校卒業。2014年訪問ボランティアナースの会 キャンナス熊本発会。2016年の熊本地震により被災。その後キャンナス熊本として益城町からの委託を受け、県下最大のテクノ仮設団地の見守り支援及び管理を行う。新たに、障害児のためのリメイクやオーダー、エンディングドレスなどのデザインや開発を手がけている。


このページでは、「困っている誰かのために、何かしたい」という志をともにする方々の、活動に対する熱い思いをご紹介します。

熊本空港から南西へ車で10分ほど走ると、目の前に現れる仮設住居群。整然と住戸が並ぶ「益城町テクノ仮設団地」の敷地内にはバスが通り、6ブロックに分かれた各エリアに、集会所や談話室が設けられています。団地共有の施設も充実。仮設スーパーのイオンをはじめ、雑貨屋、カットサロン、接骨院、居酒屋、ラーメン屋、カフェ、さらには復興住宅のモデル住宅展示まで──まさに、県下最大の仮設団地。集会場からは歌声や笑い声が聞こえ、吸い寄せられるように住民のみなさんが集まってきます。

益城町テクノ仮設団地
益城町テクノ仮設団地

今回お話を伺ったのは、そんな「益城町テクノ仮設団地」の支援を行なっているキャンナス熊本代表・山本智恵子さん。訪問看護師として勤務しながら、2014年にキャンナス(訪問ボランティアナースの会)の熊本支部を立ち上げ、2016年4月の熊本地震を機に被災地である益城町の支援に入った山本さんに、仮設団地の現状や課題、ご自身のこれまでの道のりからボランティアに対する思いまで、笑いも交えつつ、たっぷりとお話いただきました。

第1章

キャンナスとの出会いから始まった、復興支援への道のり

──まずはじめに、山本さんがボランティアに携わったきっかけについて教えていただけますでしょうか。訪問看護師というお忙しいお仕事をされているなか、ボランティアの時間も確保するというのは、とても大変なことだったと思いますが、それでもやろうと思われたきっかけは、どんなところにあったのでしょう?

山本智恵子さん

山本智恵子さん(以下、山本):
訪問看護師として仕事をしているなかで、介護保険が適用できない事例というのがありまして。そこを埋めるためにはどうしたらいいかなあ? って、すごく悩んでいた時期に、キャンナスに出会いました。有償ではありますが、キャンナスのサービスを使うと、利用者さんの生活がきちんと回っていくということで、導入したのがきっかけです。

──おっしゃる通り、キャンナスの公式ホームページには「キャンナスは、地域に住んでいる看護師が、忙しいご家族に代わり、介護のお手伝いをする訪問ボランティアナースの会です」と書かれています。

山本:
キャンナスは現在、神奈川県の本部を含めて全国で91箇所(2016年3月末現在)ありますが、当時の熊本には支部がなかったので、本部に電話して色々とやり取りしました。それで、熊本支部を立ち上げることを前提に、「サービスを使っていいよ」となりまして、2014年にキャンナス熊本支部を立ち上げました。

──立ち上げ当初、どのくらいのペースで活動されていたのでしょうか?

山本:
そもそも、利用者さんの困りごとに対応するために立ち上げたという経緯だったので、積極的に活動を広めるつもりがなかったんです。ですから、自分ができる範囲で細々と活動していましたね。月曜日から金曜日まで訪問看護師として働いて、土曜日と日曜日でキャンナスの活動を行なうというのを3年間続けて。そんな矢先の去年4月、熊本地震が起こりました。

──震災をきっかけに、お仕事をすべてキャンナスへシフトされたということで。やはり「私がやらなくてはいけない」という状況だったのでしょうか?

被災した益城町総合体育館
被災した益城町総合体育館

山本:
「やるしかなかった」という感じではありますね。私も含めて、みんな「熊本には地震が来ない」と思っていたので、油断していた部分もあり、私もまさかこんな形で支援に入るとは思っていませんでした。

──県下最大の仮設団地の支援に、なぜキャンナス熊本が選ばれたのだと思いますか?

山本:
医療職であることが一因にあると思います。1,342名がお住まいになっているなかで、すべての方を一様に見て回ることは不可能なんです。そこで、「誰を気にかけて回るべきか」を比較的容易に判断できるのが、医療職である私たちだと思うので......どういったスクリーニングをするか、ふるい分けの材料をどうやって集めるか、そういったところから始めました。

──「やるしかなかった」とはいえ、大変な役割を担うことになったと思うのですが、なにが山本さんの原動力となっているのでしょう?

山本:
そうですね、「なぜ、そんなに動けるんですか?」って、みんなに聞かれますが、わかりません(笑)。ただ、今私たちが行なっているのは、非常に必要な支援なんですよね。誰でもできるような支援だったら、もしかしたら手を伸ばしていないかもしれませんが、「あなたしかいないんだよ」って言われたら、「やるしかないな」って。そこが力となる部分なんじゃないかなと思いますね。

第2章

「手を出しすぎない」、「見放しすぎない」一歩引いて全体像を

──現在、こちらの仮設団地には1,342名の方が暮らしていらっしゃるということですが、現状を教えていただけますか?

仮設団地入居状況

山本:
2016年7月の半ばにこの仮設団地ができたので、もう約1年くらいですよね。益城町の住民は戸建てに住んでいる方や農家さんが非常に多いので、みなさん集合住宅に住み慣れていませんでした。しかも、それまで地域に形成されていたコミュニティがバラバラになって、仮設団地に一斉に入ってくるというのは、みなさんにとって非常にストレスだったようです。

──どんなところがストレスだったのでしょうか?

山本:
まず、住居に目が向けられます。「部屋が狭い」、「隣がうるさい」、「あそこが使いづらいから、どうにかならないか」といった苦情が最初に上がってきましたが、そのうち、「ここで生活していくのだから、仕方がない」と、みなさん受け入れ始めるんです。私たちも、「対応できるところはするけれど、これ以上は無理ですよ」と、きちんと伝えていくので、みなさんも「しょうがない」と諦めざるを得ない。そうすると......。

──さらに次の段階があるんですね。

山本:
そうですね。住居について諦めると、今度は人が気になってきます。隣の人がどうだとか、向こうのブロックの人がどうだとか。隣人トラブルや......ここはAからFまで、6ブロックに分かれていて、それぞれのブロックに色があるんです。

──色というのは?

山本:
たとえば、熱量の差ですね。イベントが多い棟もあり、しーんとしている棟もあって。しーんとしている棟から見ると、イベントをやっている棟は羨ましく見えるんでしょうね。そこでトラブルが生じたりしていたのですが、それもだんだんみなさん慣れてきて、「しょんなか(仕方がない)」と。「3軒両隣が仲良く暮らせれば良か」というようなところに、やっと落ち着いた感じがします。

──いろんな方が暮らしているなかで、住民の方々との距離感については、どのように考えていらっしゃいますか?

山本:
非常に難しいところですね。私たちのモットーとして、「手を出しすぎない、かつ、見放しすぎない」というのがあります。具体的に言うと、「その人の生活が、ここだけではなくて、ここを出て行ってからもきちんと成り立つような支援」をしないといけないというところなんですね。

看護学生の訪問を受けるスタッフ
看護学生の訪問を受けるスタッフ

──具体的には?

山本:
たとえば、動けなくなった方に「ご飯を買ってきて」と言われて、私たちが買いに行くのは簡単ですが、じゃあ、それがいつまで続くのか。その方が仮設住宅を出て行かれて、どうやって生活していくのかを考えたときに、私たちがその場の対応だけをするのではなく、公的サービスにつなげていく。ケアマネージャーさんも含めて、「この人が、どうやったらひとりで生活できるか」を一緒に考えていかないといけないんです。

──「ボランティア」という言葉は曖昧で、いろんな捉え方がされていると思います。山本さんの体験を踏まえて、ご自身が考えるボランティアとは、どのように定義されるとお考えでしょうか?

山本:
ボランティアとは、無償・有償に関わらず、現地にいる人たちのために、現地の人たちのニーズに合わせて行なうものだと思っているので......自分たちが「これをやりたいんです」と言って行なうものではないんですよね。いまだに自分のなかで、ボランティアの定義付けが非常に難しいのですが、ひとつだけ言えるのは、ボランティアを通して「ボランティアする側・される側の双方にメリットがあること。お互いがWin-Winの関係を作れること」が大切なんですね。そこに必要とされて、かつ、自分のでき得ることをやるのがボランティアじゃないかなと思います。

──こうしてお話を伺っていると、山本さんのなかには、すごく客観的に現実を捉えている面と、熱い思いと、両方がバランスよく存在しているように感じました。

山本:
そうですね。一歩引いた目で全体像をしっかり見ておくということが、非常に大事な役割かなと思います。冷静に現状を把握する力が必要不可欠だと思いますね。

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