情熱シアター
「自分のやれる範囲でやっていく」
「手を出しすぎない、かつ、
見放しすぎない」
サステイナブルな支援を
実現するためのモットー。
訪問ボランティアナースの会 キャンナス熊本 代表
山本 智恵子 やまもと・ちえこ
熊本県熊本市生まれ。2006年熊本市医師会立看護専門学校卒業。2014年訪問ボランティアナースの会 キャンナス熊本発会。2016年の熊本地震により被災。その後キャンナス熊本として益城町からの委託を受け、県下最大のテクノ仮設団地の見守り支援及び管理を行う。新たに、障害児のためのリメイクやオーダー、エンディングドレスなどのデザインや開発を手がけている。
このページでは、「困っている誰かのために、何かしたい」という志をともにする方々の、活動に対する熱い思いをご紹介します。
男性の孤独死、子供の不登校──抱える問題はまさに街の縮図
──現在、こちらの仮設団地で特に課題として取り組んでいるところはありますか?
山本:
業務委託とは別に、ボランティア活動の一環としてイベントをやっているんですね。まずは健康相談会。これは私たちが医療職だというところもあって、力を入れて行なっています。あと、実は......仮設団地にお住いの男性を対象に、バーをやっているんです(笑)。
──なぜ男性を対象にしているのでしょうか?
山本:
昼間はお茶会をやっていて、女性は家から出て来るんですが、男性は全然出て来なくて。今年の3月末に、惣領の仮設団地で孤独死が見つかりましたが、壮年期の男性だったんです。動ける方でしたが、昼間はいつも外に行っていて、支援団体の人たちもほとんど会えなかったようで。持病のコントロールもできていて、離れてはいるけれど、家族とのやりとりもできている。そういった方でも、死後5日経った時点で見つかるという状況だったんです。
──日中に、周りとのコミュニケーションが取れていなかったという理由で。
山本:
そうなんです。そこは私たちも盲点でしたね。「元気だからいいだろう」というのではなく、コミュニケーションが成立しているかいないかの問題なんです。これはどうにかしていかないといけないと考えて......お茶会や交流会には出て来ないけれど、「お酒を飲むよ」って言うと男性は出てくるんじゃないかと(笑)。こちらからお酒の提供はしませんが、みなさんで好きなもの持ち寄ってもらって、私たちが少しだけ料理をお出しして、参加費をきちんといただくというスタイルで、5回開催しました。
──男性たちに変化はありましたか?
山本:
回を重ねるごとに、参加者が少しずつ増えてきていますね。いまは、住民さん主体のバーへと移行中で、男性住民の方が率先して段取りや準備をしてくださっています。これも自立再建への大きな一歩ですね。これから他の仮設団地にも、「出前BAR」をしていこうと準備中です。
──それから、もうひとつ気になるのが、ここで暮らすお子さんたちのことなのですが。
山本:
そうですね。震災後にメンタル面が不安定になるお子さんが非常に多くて......顕著に現れず、内に抱えているお子さんも結構いるんですよね。それが蓄積していって、突然爆発することもありました。
──お子さんの問題で、キャンナス熊本として対応されたケースはありますか?
山本:
益城町の「子ども未来課」と連携して対応した個別ケースが4件ほどあります。ネグレクト、不登校、窃盗などですね。どれも経過観察中ですが、すぐに解決するものではないので、長い目で見ていく必要があります。
──なかでも不登校について、重点的に対策をとられているそうですが?
山本:
通学手段が路線バスであることで、新一年生の不登校につながる恐れもあったので、仮設団地の住民さんのなかから「通学支援員」を雇って、新一年生の登下校の付き添いをするような施策をとっています。
──そういう意味では、都市部で抱えているような問題とも重なる部分が多いなあと思いました。「仮設住宅だから」ではなくて、似たような問題が都市や地域のなかにもある。まさにここ自体がひとつの街なんだと気づきました。
山本:
そうなんですよね。どなたか視察に来られた方が、「ここは縮図なんだね」っておっしゃったので、「まさにそうだな」と。本当にひとつの街のようで、いろんな層の方がいらっしゃって、いろんな問題が起きる。「地域の問題と変わらないんですよ」という話をしましたね。
まだ見ぬ先を見据えた、支援のあり方とは
──ところで、山本さんが「これからチャレンジしてみたい」と思っていることはありますか?
山本:
チャレンジしたいことはいっぱいあるんですが(笑)、今後を考えたときに......復興公営住宅として、100戸ぐらい入る大きな集合住宅ができるのは確実で、そこにはおそらく、高齢者の一人暮らしの方が中心に入居されることが予想されるんです。そうなると、そこでも独居高齢者の孤立が懸念されるので、「ただの団地だから」と手放しにしてはいけないと考えています。それを未然に防ぐために、コミュニティスペースや介護施設が入って、団地自体を見守っていくシステムが必要になってくると思うので、そういったことを、計画の段階から訴えていかないといけないですよね。
──なんというか......取り組みの規模が、いち看護師さんという範疇から超えていらっしゃいますよね。
山本:
忘れますよね(笑)。最近、「私、看護師だっけ?」と思います(笑)。ただ、看護師として対応しなくてはいけない部分も、仮設のなかにはたくさんありますよ。
──たとえばどんなケースでしょう?
山本:
仮設団地に来て、がんが見つかったケースですね。終末期の方で、もし身寄りがなければ、「ここでこのまま過ごすのか、病院で過ごすのか」といった、意思決定も含めたサポートをしていく必要があるんです。ですから、仮設団地でどうすれば穏やかに過ごせるのか、ケアマネさんと一緒に考えたり、私たちができる具体策をみんなで考えたり......やりがいはあるけれど、なかなか大変です(笑)。
──何度も伺って申し訳ありませんが(笑)、山本さんの原動力ってどこにあるのでしょうか?
山本:
あははは! みなさんやっぱり、そこが不思議なんでしょうね。んー、なんでしょう? 楽しくないとやらないので、やっていて楽しいんですけど......楽しいからですかね?(笑)
──使命感というだけでは、なかなか難しい気がします。
山本:
使命感だけでは、潰れるんです。ですから、楽しんでやることですね。自分が楽しくしていることが、みんなにもいちばん伝わるし、スタッフも楽しんでやってくれるんだと思います。
カラカラと笑い、思ったことをまっすぐ伝える山本さん。インタビューの最後に「ご自身のことを、どんな性格だと思いますか?」と伺うと、こう答えてくださいました。
「竹を割ったような性格だねって言われました(笑)。竹には裏も表もあるので、私にも裏表がありますが、ただ......良いものは良いし、悪いものは悪いっていうのは、はっきりしていると思います」
この言葉こそが、ご本人の性格だけではなく、これまで行なってきた、そして、現在行なっている山本さんのボランティアのスタイルを的確に表しているのではないでしょうか。