情熱シアター

星野智子さん

持続可能な社会を実現するために
必要なのは一人ひとりが「知り、
考え、行動する」こと

困難な状況にいる子どもたちが本当の意味で自立するために、数字だけでは判断できない「自立」を目指す。

一般社団法人 環境パートナーシップ会議 副代表理事
星野 智子 (ほしの・ともこ)

大学卒業後、環境団体に就職し有機農業の推進、環境情報・教育プログラムにかかわる。ボランティアでは全国の青年による環境保全ネットワークづくりや、イベント会場でのごみゼロ活動のコーディネートに取り組んできた。地球環境パートナーシッププラザの運営、国際会議におけるNGO活動支援や生物多様性保全の推進、SDGsに関する講演、ワークショップなどを多数行う。現在(一社) SDGs市民社会ネットワーク、(一社)海外環境協力センター、NPO法人日本NPOセンターの理事、真如苑社会貢献アドバイザーなどを務める。


このページでは、「困っている誰かのために、何かしたい」という志をともにする方々の、活動に対する熱い思いをご紹介します。

今回リモートインタビューでお話を伺ったのは、一般社団法人「環境パートナーシップ会議(EPC)」副代表理事の星野智子さん。夢は「環境や争いごとの心配をしないで平穏に暮らせること」だと言う星野さんは、これまでずっと環境問題に関わる国際会議の運営や市民活動サポート、青年の環境ボランティア活動の推進、国連の会議やG8・G7サミットなどへのNGO支援を行なっていらっしゃいました。

そんな星野さんが考える、持続可能な社会とは? 私たち一人ひとりにできるアクションとは?

リモートで取材に答えてくださった星野さん
第1章

みんながフェアに暮らせる仕組みを、みんなで考える。
デンマークで学んだ姿勢

──環境問題に関するさまざまな活動をされている星野さんですが、そういった問題に関心を持つようになったきっかけは何だったのでしょうか?

星野智子さん(以下、星野):
就職活動をしているときに地球サミット('92年6月に「地球環境の保全」をテーマにリオデジャネイロで開催された国際会議)があって、「自分でも何かできないかな?」と漠然と思っていたんです。当時は国際政治や国際関係論を勉強していましたが、そのなかでも人権侵害や環境破壊といった問題が浮き彫りになっていたので、自分なりに勉強していくうちにNGOや国際機関に関連する公の仕事に就きたいと思うようになりました。

地球サミット1992年
地球サミット1992年

──それで、大学を卒業後に環境団体に就職されたのですね。

星野:
「日本リサイクル運動市民の会」という環境団体が立ち上げた、有機・低農薬農産物の流通事業を行なう仕事に就きました。「有機・低農薬農産物の生産・消費の輪を広めることは、環境保全活動の一環である」という考え方に共感して、「働きながら環境活動ができるなんて、一石二鳥だ!」と思ったんです(笑)。そうして3年ほど働いたのちに、3か月間休職してデンマークに留学しました。 レスキューアシスト」でした。

──なぜデンマークだったのでしょうか?

星野:
環境問題や福祉に対する意識が高く、社会制度もしっかりしている国というイメージだったので、ぜひ暮らしてみたいと思っていたんです。実際に行って感じたのは、民主主義の考え方が根付いていること。みんなが参加できる仕組みや、みんなで知恵を出し合う仕組みが考えられていて、「自分たちが民主主義を作ってきたんだ」という自負をデンマークの人たちからは強く感じました。みんながフェアに暮らせる仕組みを、みんなで考える。その姿勢にとても共感できました。

デンマーク時代の恩師と共に
デンマーク時代の恩師と共に
第2章

フェアな社会が実現できれば、おのずと持続可能な社会へと変わっていく

──一般社団法人「環境パートナーシップ会議(EPC)」の立ち上げから参画し、副代表理事として活動されている星野さん。目指す社会運動の姿とはどんなものでしょうか?

星野:
デンマークで感じたような、みんなが参加し、みんなで考えながら仕組みを作っていきたい。政策に対して苦言したり反対するのではなく、同じテーブルに着いて、みんなが同じ目線で話し合えるような社会を目指したいと思っています。EPCには「"持続可能な社会"を目指し、多様な主体をつなぐ役を果たす」というミッションがあります。この「持続可能な社会」のためには「フェアな社会」という発想が大事ではないかと思っているんです。

未来の世代に責務がある私たちがいま、未来の資源を奪って生きているのはアンフェアじゃないか。どんな時代にいても、どんな境遇にいても、フェアな社会であるように。そういった社会が実現できれば、おのずと持続可能な社会へと変わっていくだろうと私は考えています。そのためにも、一人ひとりが自ら動いて社会に関わっていくことが大事だと思うんです。

2012NGO連絡会幹事会の様子
2012NGO連絡会幹事会の様子

──まさにその「一人ひとりが自ら動いて社会に関わる」ことが、活動の課題でもあるようですが......。

星野:
おっしゃる通り、市民活動に関わる人がなかなか増えないのが日本の現状です。冒頭でもお話ししたように、私にとっても活動のきっかけとなった'92年の地球サミットを機に設立された国際協力や環境系のNGOは多いですが、30年近く経ったいま、順調に世代交代しているとはいえない状況なんですね。「もう私の代で活動を終了するかもしれない」と理事の方がおっしゃっているのを聞くこともありますし......経済的に不況が続いているいま、市民活動自体が持続可能ではないということは課題として実感しています。

──コロナ禍でますます若年層の貧困化も進んでいるいま、「自分が生きることで精一杯」と感じている人もいらっしゃるのかもしれませんね。

星野:
そうですね。環境活動というのは、少し先の"未来"の話をしているので、どうしても「余裕がある人がやるものじゃないの?」と言われがちなんです。でも想像力を使って"いま"やらなければ、もっと将来は暮らしにくくなる、と考えてもらいたいです。未来が暗いとさらに生き辛くなると思いますし、そうなったときに最も影響を受けるのは、社会において脆弱な立場にいる方たちなんです。だからこそ、「いまできることを、一緒に取り組んでいきましょう」と言い続けています。

市民の伊勢志摩サミット
市民の伊勢志摩サミット
C20 クロージングセッション
C20 クロージングセッション
第3章

地球環境はいま、「変化」ではなく「変革」が必要な段階にきている

──昨今、日本でも頻発する気象災害において改めて問われる地球規模での環境問題について、活動の現場で感じていることを教えてください。

星野:
私たちのような環境問題を扱う団体だけじゃなく、それ以外の人たちも「この状況って、やっぱりまずいんだよね?」と言い始めています。例えばジェンダーや子どもの問題を扱っている団体から「気候変動に関する勉強会を一緒にやってもらえませんか?」と相談されたり、イベントに呼ばれたりすることも増えています。経済界も同様に危機感を持っていて......工場が流される、石油の価格が上がるなど、直接的に影響がありますからね。そうやっていろんな分野の人たちが危機感を抱いているのを、'18年に(国連気候変動枠組条約締約国会議で)パリ協定が採択されて以降は特に感じます。

──私たちのような一般市民も「これほど台風や大雨が頻発するものなのか」と危機感を抱いていますが、そんななかで個々人にできることとは何だと思いますか?

星野:
「知る、考える、行動する」ですね。まずは事実をきちんと知って、考えて行動する。人に言われたことだけをやるのではなく、自分で考えて行動することが大事だと思います。といっても「温暖化防止のために、マイバックやマイボトルを持ち歩いています」だけでは不十分な段階にきていて、「じゃあ、次は何ができるだろう?」「私が変わるだけではなく、周囲の人の行動を変えよう」と考える必要があるのが地球環境の現状です。

そういう意味でも、SDGsで打ち出しているのは「変化」ではなく「変革」なんです。レジ袋が有料になって、みんながそれに従っているのは仕組みが変わったからであって、そういった「変革」にきちんとコミットしていく。例えば、きちんとごみを分別していないスーパーがあったら「温暖化防止対策のために、ごみを分別してください」と伝えたり、さらには「ごみの出ないようなものを売ってください」とお願いする。

私たちは消費者ですから、企業に対して希望を伝えたり、嫌なものは嫌だと伝えれば、企業を変える可能性があるんです。そういった日々の行動も、ある意味で「投票」といえるでしょう。選挙で投票することはもちろんですが、「日々の生活のなかで、自分が投票できるアクションって何だろう?」ということを考えて、それを行なう。行なったことをシェアして、仲間を増やしていく。そうやって仕組みを変えることにコミットすることが、いま一人ひとりに求められていると私は思っています。

SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)
SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)

──ボランティアに参加するというのもアクションのひとつだと思いますが、星野さんが運営に関わっている地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)では、「環境ボランティアなび」を発行していました。これはどんなものですか?

星野:
環境保全活動等を行なう団体と、一般市民や企業等とのボランティアマッチングの促進を目的として作られた冊子です。環境問題やボランティアに関心のある人、あるいはCSRの一環として社員にボランティア活動をさせたい企業が、環境団体とスムーズに出会える場を作りたい。ボランティアをやりたい人と、やってほしい団体をつなげようという試みです。

数多くある環境団体のなかで、ひとつを選んでドアを叩いてみるというのはなかなか勇気がいることだと思うんです。無理な作業を強いられたり、受入体制がしっかりしていないといったことも、ないとは言いきれませんから。そういう意味でも「環境ボランティアなび」に掲載されている団体はそれぞれ、私たちが組織体制や運営方法などの確認をしてからご案内しているので、初めての方も安心してボランティアに参加いただけるというメリットがありました。

環境ボランティアなび
環境ボランティアなび

──そういったさまざまな活動を行なってきたなかで、星野さんご自身が課題に感じていることやチャレンジしたいことは何でしょうか?

星野:
先ほどもお話ししたように、経済的な不況や格差問題などが広がっているいまこそ、市民社会がもっと活躍していなければいけないのですが、寄付が集まらなかったり、助成金が出なかったりと、活動資金を確保することすら困難になっている状況です。そうなると、やっぱり期待しているほど活動は膨らみませんよね。むしろシュリンクしてしまっている印象があるので、「もうちょっと何とかできないかな?」というのは感じています。

そういった背景を踏まえると、私がチャレンジすべきところは「もっと人を巻き込み、参加する人を増やす」こと。そして、私たちと一緒に声を上げてくれるような次の世代を育てることだと思うんです。EPCでは持続可能な開発のための教育(ESD)促進活動も積極的に行なっていますが、いまの若い世代は環境問題に対してポジティブに頑張ろうとしている人たちが多い印象です。そんな彼らの期待に応えられるような事業やイベントを、今後もどんどん行なっていきたいと思っています。


「一日のうちの多くの時間を費やす"仕事"ですから、自分がこれ! と思ったことをやりたいですよね」と笑顔で語る星野さん。イキイキとお話しされる姿を見ているうちに、「よし、私もアクションしてみよう!」と自然と力が湧いてくるのでした。

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