4.SeRVが常設化される意味とは?
太田:
緊急時にスムーズな活動を展開していくためにも、平時の地域活動を通して、お互いの顔が見える関係性を構築しておくことが大事だと思うのですが、その辺りはいかがでしょう?
桒原:
おそらく常設化によって目指すものはふたつあると思います。
ひとつには太田さんが指摘されたように"地域の中でもし何かが起きた場合に、各種団体同士のつながりを発揮して活動を展開するための関係作り"ということが挙げられます。
もうひとつは組織的災害ボランティア活動の面から、やはり現場にはコーディネーションなり、マネージメントができる人が必要なんです。そういう人材を育てて、全国に配置する必要がある。そのふたつの側面が重要なんですね。
早瀬:
災害時にはネットワークがとても重要になります。ネットワークとは、網のようなつながりであって、そこに上からボールを落としたら網の目がグッと近づく。そういうものなんです。
平時からつながりがあれば網の目は寄りますし、つながりがなければ寄らない。平時の面識が非常時にはモノを言うんです。
そのことを僕は阪神・淡路大震災の時に経験しました。それまで、連携し合ってきた仲間たちが、電話で頼んだだけでコーディネーターとして出向いてくれたんです。僕はあの時、無駄にみんなとお酒を飲んでこなかったと思いましたよ(笑)。それまでの関係から、自然と全国のコーディネーターたちとのつながりができていたんです。
ボランティアセンターというのは、ほとんど一人か二人のコーディネーターで回しているものなんです。長期になればなるほどとてもハードです。そんなとき「仕事を休んででも手伝ってほしい」「来てくれないともう回らんのや」と、仲間に1本の電話で頼める関係が作れるかどうか。
アイツが言うんだったら、ということで来てくれる。平時に知り合っていることは、本当に大事なんです。
平時における活動の様子。
他のボランティア団体とともに、公園に植樹された桜に施肥した。
(2014年6月22日)
桒原:
そうですよね。僕の場合は朝日新聞厚生文化事業団にお世話になった方がいました。
阪神・淡路大震災から1月24日まで現場にいて、家に帰ったら、彼から電話がかかってきて。「明日、12時に兵庫県福祉センターに行ってほしい」と。
もう彼にお願いされたら「ラジャー」と言うしかないです(笑)。結局、そのまま兵庫県福祉センターに3か月いましたよ。
5.自助・共助・公助とは?
太田:
昨今、ボランティアの世界で"自助・共助・公助"という言葉をよく耳にします。SeRVも常設化するに当たって、こうした考え方を踏まえておきたいと思っています。
早瀬:
自分たちでできることは自分たちでする。そうした心構えを平時から構えを持っているということですね。ただ"公助"という言葉が示す行政の仕事と、僕ら、ボランティアの仕事では、それぞれ特徴があってね。僕らは全体をおしならべて公平にすることは不可能です。裏を返せば、僕らは"他ならぬ、あなたのために"という関わりができる。
温かさとは、不公平であることと表裏一体なんです。人は"他ならぬ、あなたのために"という行為を受けた時に、温かい対応を受けたと感じるんですよ。
僕らは、行政にはできないことができるんです。それぞれ異なるタレント性を持ち、いろんなことを思いついて。そうやってさまざまなことをはじめると、結果的に多彩になる。
行政は公平性を保つために、少なくとも過半数が賛成することしかできない。それゆえ非常に画一的になり、冷たくならざるを得ない。そういう性格の違いがある。
お互いがお互いの弱みをカバーし合う関係にあるんです。
ですから行政の防災予算が潤沢だったところで、行政だけで完璧な対応ができるかといったら、そんなことはない。行政にはできないことがあり、それをボランティアはできる。
そうした背景を踏まえて、SeRVという存在をもう一度、俯瞰してみることも重要でしょう。
桒原:
東日本大震災から1年経った頃のことですが、仙台市内のある小学生が、大人に向かって言ったんです。「自分の命、助けられる?」「自助・共助なんて、人に言われてやっちゃダメだよ」って。
ストレートに言われてドキッとしました。「自助力を高めよう」とだけ人に言われたら「自分のことは自分でやりなさい」って聞こえてしまいます。自分もやる、助け合いもする、自助・共助のバランスが大事だと思います。
僕は、そこに立ち返らなくてはいけないと思う。
6.ボランティアとは、つまり何なのか?
太田:
皆さんにとって、ボランティアって何だと思いますか?
早瀬:
そりゃぁ、"ほっとかれへん"でしょう(笑)。
桒原:
あ、僕もいま同じことを言おうと......。
早瀬:
大事なのは自発性であって"ほっとかれへん"なんです。
桒原:
僕も同じです。困っている人をほっとかれへん。だから自由意志なんです。気づいて行動しちゃうんです。
太田:
つまり、強制的なものでもないし、みんなに公平にしなくちゃとか、そういうことでもないということですよね。
桒原:
よく"絆"という言葉が用いられますね。
早瀬:
面白いのは、「絆される」と書くと、「ほだされる」と読むんです。
絆という字は、本来は家畜をつなぐ紐のことですから縛られるという意味です。だから、"情にほだされる"というのは、情に縛られることです。でも、絆があるから、情にほだされて、"ほっとかれへん"になるわけですよ。
桒原:
私は人と半分と書く"伴"という言葉のほうがしっくりとくるんです。ともに歩む"伴歩"でいい。東日本大震災から約1年後に設立し、私も共同代表になっている支援者のケアを目的とした、支援者のための支援センターTOMONYも、"伴に"という意味です(笑)。
早瀬:
ボランティアって、最初はほっとかれへんから動くんだけれども、さらに意欲が高まるのは、被災された方々の未来への思いに共感するからなんです。ちょうどボランティアと被災者が同じ夢をともに実現する仲間のような関係になる。
「この町を復興させたいんや」「僕らだけじゃできへんから手伝ってくれ」と被災者から言われたら、すごく頑張る。"伴に"歩むチャンスを、被災された方々が作ってくださるわけですね。
太田:
それは、とてもよく分かります。我々SeRVも、さまざまな被災地で同じ思いで活動をしてきました。
では最後に、これからのボランティア活動に対する課題とは何でしょうか?
早瀬:
ボランティアって、自発的に関われるかどうかで、姿勢が違うんですよね。人から言われてやると、とかく指示待ちになるし、トラブルがあった時には指示した人のせいにしてしまう。
スポーツ大会にはボランティアが大勢、参加します。そうしたイベントって必ずと言っていいほどトラブルが起こるんです。その時に、自発的な人たちだったら、そのトラブルを引き受けてくれる。
昔の話ですが、長野オリンピックの時にジャンプ競技が大反響でした。でもあれには裏話があって。あの日、大雪が降って、現地に出向こうとしたのに競技を見られなかった人がたくさんいた。そこでは、ボランティアの皆さんが一生懸命謝っていたんです。山の天候なんだから、自分のせいではまったくないんですけど、謝っていたんですよ。
一生懸命に「申し訳ない」「申し訳ない」って言っていた人がたくさんいたから、あの場は収まった。自発的な人たちのエネルギーってスゴイんです。トラブルに向き合い、当事者として構えてくれるから、観客の不満の気持ちも収まっていくんです。
ですからSeRVの取り組みについても、みんなが自発的にできる自由さが保証されるとすごくいい活動になる。
桒原:
大学で非常勤講師をしている頃、いろんな大学の先生に調査したことがあるんです。高校までにしてきたボランティア体験について。
多くは「やらされた」「突然、行けと言われた」とかね。福祉やボランティアについて、自発性のない教育を受けてきて、どちらかと言うとネガティブな印象を残しているんです。
早瀬:
ボランティアって自発的にすることなのにね。おそらく"タダ"ですることだと思ってる。お金を貰わなくても、したいからするのがボランティアなんです。
桒原:
体験学習と地域奉仕活動の機会を結びつけるサービスラーニングというカリキュラムがありますが、そういう助走期間というかね、準備期間が未成年の時期にしっかりとあることが重要です。突然、「ボランティアやります」じゃなくて。
そうでないと、大人になって自治会員やってくださいとか、民生委員になってよと言われても、みんな"嫌"という反応から始まる。
"社会に貢献する活動をする" "地域に役立つ"のは、当然のことと思える。そういう育ちなり、学びが欠けているのでしょう。
かつての日本には"ほっとけない"人たちが、地域にいっぱいいましたよね。ところがいまでは、コミュニティソーシャルワーカーとか、見守りボランティアいう肩書きを付けないとやる人がなかなか出てこない。
人の温かみがある社会を作るには、人を育てるしかないと思うんです。
太田:
そうですね。
SeRVの常設化を全国規模で進めていくにあたって、平時の地域とのコミュニケーションを今より密にしながら、 相手に寄り添い、困っているなら飛んでいく「友の心」を発揮できる取り組みを考えていきたいと思います。
早瀬さん、桒原さん、この度は貴重なお話を有り難うございました。