SeRV 設立30周年にあたって宗教界によるボランティアの歩み
＜後編＞

1995年に阪神・淡路大震災をきっかけに立ち上がった「SeRV＝真如苑救援ボランティア（Shinnyo-en Relief Volunteers）」。30周年を迎えるにあたり、対談企画「宗教界によるボランティアの歩み」をお届けします。

後編では、宗教界全体を俯瞰されてきた島薗先生が感じる宗教ボランティアへの期待、さらにSeRVの強みや今後の活動へのアドバイスについて、心に寄り添う救援組織としてのあり方にも触れていただきました。

島薗：
持続的に活動できるのも、宗教の特徴ですよね。一般的に「ボランティア」というと、人手が一番必要なときにバッと集まって活動し、帰っていく緊急支援のイメージです。なかには何度も来る人もいるでしょうが、ほとんどの人が単発で短期間の活動になります。一方、宗教ボランティアは同じところに何度も通い続けて、継続的に支援するなかで心の関係を作っていく。

西川：
ユニベールのボランティアも阪神・淡路大震災で関係ができたところを今でも訪問し続けています。独居のご老人もおられるので、そういったところを中心に訪問していたのが今でもずっと続いている感じですね。ボランティアスタッフが参加する専門家による研修も、今に至るまで継続的に続けています。

島薗：
能登は過疎が進んでいたなかでの震災で大きな打撃を受けていますが、それでもなんとか未来へ繋ぎたい。そういったときに、支援者が長期的に関わることが過疎地の新しい持続化の形になるのではないかという話もあります。過疎地に自分たちなりの意義を見出し、定期的に通う。「関係人口」と言うそうですが、宗教団体の支援活動はそういったことに繋がるような面があるんじゃないかと思います。

被災直後の緊急支援から後の復興支援まで、必要とされる支援活動が続く

西川：
東日本大震災の後にも熊本地震などの大きな災害がありましたが、能登半島地震というのは復興の形について、これまでの災害とまったく違う印象を受けています。

島薗：
たとえば、経済優先で便利なものを求めていくと、弱い人や過疎の地域が取り残されてしまいますね。それらに目を向け大事にしていくことが現代社会の課題にもなっています。まったく違った例になりますが、東京の山谷にも似たようなことを感じます。

かつては日雇い労働者の街でしたが、次第に路上生活者の拠点になった地域です。宿泊費が格段に安い部屋が多くあるので、生活保護でもやっていける。そこで暮らす人たちをいろんな団体が支援していて......上智大学のグリーフケア研究所で学んだ人たちがいたり、訪問看護をやっている看護師さんたちがいたり。それぞれが非常に生きがいをもって、支援活動をされているんです。

また、光照院という地域のお寺が力になり、支援を受ける高齢者の方たちが仲間になって、お互いに助け合ったりもしていて、最後に地域のお寺のお墓に一緒に入ることが心の安らぎのひとつになる。支援する側も非常にやりがいを感じている様子は、災害時の宗教ボランティアの動きとあわせて現代社会が課題としていることへのヒントにもなるような気がしています。

最初のほうにお話ししたように「自己責任」で片づけられてしまう現代社会のなかで、弱い立場の人たちに普段から手を差し伸べている宗教界のこうした動きが今後、さらに必要になってくるのではないかと思いますね。

西川：
私たちも市民活動公募助成の形でそうした支援を続けていますが、災害が起こると、そういった社会に潜在している課題が顕在化されますよね。

島薗：
今後も災害は起こっていくでしょうが、SeRVとしての課題はありますか？

西川：
SeRV本部長であると同時に、真如苑教務長としての立場から、私は以前、SeRVとして充分な活動人員を確保しつづけることに関して、『職員が教団の中で自分が果たすべき役割のウェイトが大きくなってくると、ボランティア活動に志願しなくなっていってしまうのではないか？』という懸念を持っていた時期がありました。時間が経った今、改めてSeRVを俯瞰してみた時、確かに、自分の取り組むべきことに注力するために、思うように参加できない、という人もいるのですが、その一方で、かつてSeRVに参加した経験があって活動の意義をよく理解している人が、参加者を送り出したり、自分から活発に動くという傾向も強まっています。
SeRVを常設化したことは大きかったですね。真如苑というのは宗教教団であって、ボランティア団体や福祉団体ではないため、全体でそちらにばかり流れてしまうのはそもそも違うわけですが、常にSeRVのことを意識している、活動の核となってくれる信者さんやSeRV担当をしっかり立てて、必要に応じてほかの信者さんたちも参加するという今の状態は非常に良い形だと感じています。普段から近隣との繋がりを欠かさず、経験を蓄積していくことが大切だと考えています。

島薗：
かつては「ボランティア活動は信仰活動に関係ないじゃないか」みたいな意見も宗教界には一部あったようですが、宗教による社会活動は宗教にとって外なるものではなく、大事な要素なんだという認識が伝統仏教でも新宗教でも持たれるようになっています。

先ほどの山谷の話と繋がりますが、孤立する、孤独を感じる、かと言って仲間を求めて団体に入ることには抵抗感がある......そういった人たちに「お互いが繋がり合うことの意義」をどう伝えるかということでもあると思うんですね。

そういう意味でも、私が代表を務めている宗援連（宗教者災害支援連絡会）はそれぞれの宗教団体がなさってることを互いに報告し合い、情報交換を行っています。そこで生まれる相乗効果といいますか......ゆるやかに繋がっていくことの意義を、日本のみならず世界へと広く伝えていければと思っています。

西川：
情報交換会として集まりますが、私などは、情報の交換だけでなく「こうやって頑張っている方がおられるのか」みたいな、実際に顔を見てお話しできることが、宗援連に参加していて大きいですね。

島薗：
学べるだけでなく、励まされますよね。宗援連を運営している立場としては、被災地に行ってもほとんど何もできないわけですが、今の社会で必要とされている生き方とは何か、その生き方は非常にやりがいを感じるものなんだ、ということに、見ているだけでも共感できるものがあります。

緊急支援、復興支援、平時の活動を通じて、心に寄り添う救援組織を目指して

西川：
最後に、SeRVへのアドバイスなどがありましたらこの機会にお聞きしたいのですが。

島薗：
ボランティアというのは組織的にやらなければならないと思うんです。やりがいを感じて、「ボランティアを一生の仕事にしても良い」というくらいに取り組んでいる人が伝統仏教にも結構います。もちろんSeRVのなかにもいらっしゃると思うので、そういう方たちが増えていくことも重要ですし、そういう方たちを支えることも重要です。たとえば、緊急救援で炊き出しのボランティアをしていた人たちがそのノウハウを活かし、子ども食堂を運営して常設的に子どもたちの居場所づくりに取り組んでいくような例もありますから。
ボランティアで経験したことを話し、「自分がなぜそこまでやるのか」という意義を認識してもらう場を設けて、「自分もやってみたいな」と感じる人を増やしていく。そういった広げ方もいいんじゃないかと思います。現在のSeRVでは "経験を伝える場"が広がっているのでしょうか？　ボランティアは身体を動かすことが大事と思いがちですが、活動の意義を語っていくということも継続・発展させていくうえで大事なことですよね。
そういった意味でも、宗援連で行なっている現状の共有や、能登の今を発信していくこと、現在行なわれている活動の重要性を語っていくことも大切だと思っています。活動を継続するということは、その両方があって成り立っていくのではないかと私は思っています。

西川：
ありがとうございます。日本の場合、残念ながらこれからも地震を含め、温暖化に伴う気象災害にも直面せざるを得ないのですから、そういうところで果たすべき使命があり、それが果たせるように平生からしっかりとした備えを欠かさないことですね。 「他のことはなかなかできないけれど、SeRVの活動だったらやる」という方もいらっしゃいます。経験を語っていく場を設けていくことで、それぞれが意義を見出し、それがしっかりと継承されていくように、これからも心に寄り添う救援組織であり続ける努力を重ねていきたいと思います。
島薗先生、本日はありがとうございました。